月の恋人
「――… 翔くん。行こう、スタジオへ。」
「陽菜ちゃん―…」
「翔くんが望むなら、声が枯れるまで、歌ってあげる。それから―…」
―――――…
「――――… え?」
翔くんが、大きく目を見開く。
あたしが背伸びして、耳に囁いた言葉に―…
“ずっと、そばに、いるよ――…”
――…
それは、もう小さな子供ではない
14歳の あたしと翔くんが交わした
新しい、約束だった。
先のことなんて、わからない。
未来は、無限に広がっていて
きっと沢山の選択肢があって。
だけど、これだけは、約束。
“そばにいる”
それがどんな形であれ。
あたし、あなたのそばに、いる。
そうして
再び、駅へと向かって歩き出したあたし達は
しっかりと手を繋ぐ。
それは、どんな言葉を交わすより確かなしるしのようだった。