月の恋人







「おぉ、来たの。待っとったよ。……陽菜ちゃん、だったかの。」


「おじいさん……」



重い鉄の扉

深く染み込んだ珈琲の匂い

飴色の光。





ああ、やっぱり。

ここはなんだか、すごく落ち着く場所だ。





「あの…先日は失礼しました。お礼も言わずに……」


「ええ、ええ。こうしてまた来てくれた、それでえぇんじゃよ。」



そう言って微笑んだおじいさんの目尻に、深い皺が幾重にも刻まれる。


くしゃり、と笑ったその温かい笑顔に、なんだかとても安心した。






「―… ほいで、なんじゃ。今日はお姫様の腕試し、か?」


「――…じーさん、今日はやけにおしゃべりじゃんか。」


タケルさんが、からかうようにおじいさんに言う。




「……スタジオ、貸してやっとるんじゃ。ちょっとくらい、じじいにもサービスせんか。」





――…スタジオを“貸してやってる”?






「あの、ここが……スタジオなんですか?」


「陽菜ちゃん。」


「翔くん――…スタジオって、ここなの?」







――――――…




「――… ここは、ワシの終(つい)の棲み家じゃよ、お嬢さん。夜な夜な、趣味人の集まる場所じゃ。」







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