月の恋人
そう言って、ちょっと寂しそうに笑ったタケルさんの表情を、あたしは見逃さなかった。
“ずっと…俺のそばで歌ってくれない?”
そう、それは、翔くんに言われる前に、タケルさんに言われていた事だった。
あの、嵐の夜に―――…
「――… あたし、そんな大層な者じゃ、ありませんっ…」
途端に、怖くなった。
“ミューズ”って
さっき、ジョージさんが言っていたけど。
そんな――… 気の遠くなるような情熱で
翔くんや、タケルさんが、表現者を探していたなんて。
あたし、そんな事知らずに
“歌ってあげる”なんて――…
なんて、軽い気持ちでここに来てしまったんだろう。
おこがましいにも、程があるよ
あたしなんかで、良いの?
そんな自信、どこにも無かった。