月の恋人
◆
「―――… ほんとに、あたしで、いいの?」
西日が頬を染め始めたその日の夕方。
翔くんと並んで近所の川べりを散歩しながら、そう聞いた。
話を聞けば聞くほど
自分が、とんでもないことに足を突っ込んでしまったんじゃないか、……そんな風に思えて仕方なかった。
―――――…
翔くん、タケルさん、ジョージさんのバンド“Another Moon(アナザームーン)”。
それは、あたしのイメージしていた“バンド”とは、ちょっと違っていた。
一番後ろでドラムを叩いているのはジョージさんだけど
翔くんは、なんだか沢山の機械を操作していて
タケルさんは、キーボードの他に、曲によって、ベース、ギター、ビブラフォン、フルート、その他にも名前の分からない色んな楽器を弾いていた。
テレビで観るような、いわゆる“バンド”とはちょっと毛色が違ってて
でも、奏でる音は、とても心地好いものだった。
たとえるなら
氷の粒が、光と共に踊り出すような
綺麗で、繊細な音の連なり。
それは、全ての曲を編曲しているという“ブレーン”の、翔くんそのものを表しているような気がした。