月の恋人







「―――… ほんとに、あたしで、いいの?」





西日が頬を染め始めたその日の夕方。

翔くんと並んで近所の川べりを散歩しながら、そう聞いた。




話を聞けば聞くほど
自分が、とんでもないことに足を突っ込んでしまったんじゃないか、……そんな風に思えて仕方なかった。





―――――…






翔くん、タケルさん、ジョージさんのバンド“Another Moon(アナザームーン)”。


それは、あたしのイメージしていた“バンド”とは、ちょっと違っていた。



一番後ろでドラムを叩いているのはジョージさんだけど


翔くんは、なんだか沢山の機械を操作していて

タケルさんは、キーボードの他に、曲によって、ベース、ギター、ビブラフォン、フルート、その他にも名前の分からない色んな楽器を弾いていた。


テレビで観るような、いわゆる“バンド”とはちょっと毛色が違ってて

でも、奏でる音は、とても心地好いものだった。



たとえるなら
氷の粒が、光と共に踊り出すような

綺麗で、繊細な音の連なり。




それは、全ての曲を編曲しているという“ブレーン”の、翔くんそのものを表しているような気がした。








< 302 / 451 >

この作品をシェア

pagetop