月の恋人



「――… 月の雫。」

「え?」


「いま、俺が表したい音。月からこぼれ落ちる、光の雫みたいなものを表現したいんだ。」


「――――… 月…?」




翔くんが、微笑む。


そう言えば―… うちに来た日の夜。

翔くんは、“月光浴”をしてた。

あたしは、そんなものもあるのかなって普通に流してたけど、あの夜… 翔くんは、曲の構想でも練っていたのかな。



バンドの名前も“Another Moon”だし、きっと翔くんにとって、月はとても重要なもの、なんだ。





「“Brother Sun, Sister Moon”、ギリシャ神話の世界でも。… 不思議だな。西洋では、太陽は男性、月が女性の象徴なのに。ここ日本では、それが逆なんだ。」


「――… 逆? 女性が太陽で…… あ、“元始、女性は太陽であった”?――…天照大神…?」


「陽菜ちゃん…」




翔くんが何を言いたいのかは分からなかったけど、何となく頭に浮かんだ言葉を口に出したら、翔くんは立ち止まってしまった。







「――… 翔くん?」






< 303 / 451 >

この作品をシェア

pagetop