月の恋人
「――… 月の雫。」
「え?」
「いま、俺が表したい音。月からこぼれ落ちる、光の雫みたいなものを表現したいんだ。」
「――――… 月…?」
翔くんが、微笑む。
そう言えば―… うちに来た日の夜。
翔くんは、“月光浴”をしてた。
あたしは、そんなものもあるのかなって普通に流してたけど、あの夜… 翔くんは、曲の構想でも練っていたのかな。
バンドの名前も“Another Moon”だし、きっと翔くんにとって、月はとても重要なもの、なんだ。
「“Brother Sun, Sister Moon”、ギリシャ神話の世界でも。… 不思議だな。西洋では、太陽は男性、月が女性の象徴なのに。ここ日本では、それが逆なんだ。」
「――… 逆? 女性が太陽で…… あ、“元始、女性は太陽であった”?――…天照大神…?」
「陽菜ちゃん…」
翔くんが何を言いたいのかは分からなかったけど、何となく頭に浮かんだ言葉を口に出したら、翔くんは立ち止まってしまった。
「――… 翔くん?」