月の恋人
◆
8月に入った。
先月までの開放的な太陽光線が、少しだけ湿度を増して翳りを含んだように感じる。
それでも、その日は、朝から茹だるような暑さで。
ママがあたしに
庭で採れたイチジクを持たせたのは、
おばあちゃんの体調を心配して、なんだと思うけれど。
「陽菜、ちょっとこれ持って、おばあちゃん家に行ってくれない?」
「え……」
“おばあちゃん家”という言葉に
胸がツキン、と悲鳴を上げた。
あたしの中心に空いた大きな空洞は、
埋まらないまま
時間と共に干からびて、
ヒリヒリした慢性的な痛みすら、そこには存在していた。
「翔くんと一緒に。ついでにおばあちゃんに元気な顔見せてらっしゃいな。」
「ママ…」
(涼の様子、ちょっと見てきて)と、
果実を渡す手に願いを込められた気がした。