月の恋人
◆
「おばあちゃん家かぁ、何年ぶりだろ。」
隣町まで、バスに乗って
おばあちゃんの家に向かった。
あたしの右手には、翔くんの左手。
翔くんが、好きだ、と言ってくれたあの日から
あたしたちは、並んで歩くとき、必ず手を繋ぐようになっていた。
あたしがそうしたい、というよりは
むしろ、翔くんの方から、と言った方が正しい。
あたしが少し遅れて後ろを歩こうとすると
翔くんはいつも
不安そうな顔をして振り返って
必ず、左手を差し出すのだった。
あたしの存在を、確認するように…。
少しずつ慣れてきたその、掌の中で
今日は、あたしの右手の方が大きな不安を抱えているようだった。
「陽菜ちゃん、手、冷たいね…。緊張、してるの?」
「翔くん…」