月の恋人
◆
「よぉ来たねぇ、陽菜ちゃん、翔くん。まぁ、まぁ、イチジク!ありがとうね。さ、上がっていきん。」
久しぶりに翔くんの顔を見られて嬉しかったのか
おばあちゃんはとてもはしゃいでいた。
あたしは
玄関に無造作に置かれた涼のスニーカーが目に入って
おばあちゃんの話も半々に、
一歩足を踏み入れた途端、全身が涼の気配を探していた。
涼… どこに… どこに、いるの?
廊下に、台所に、奥の和室に、
視線を、移すけれど
どこにも、涼はいなかった。
トイレ? お風呂? … お庭?
………
「…… ちゃん…!、陽菜、ちゃん!」
「っ… あ、ごめんなさい…」
縁側のある奥の和室から、翔くんがあたしを呼んだ。
「涼は、出かけてるって。」
「あ…… そう、なの…」
翔くんが、切なそうにあたしを見てそう言う。
その、瞳の色が、なんとも頼りなげに揺れていて。
―――… ごめんなさい。
何に対してかわからない謝罪の言葉が、空を切った。