月の恋人






「よぉ来たねぇ、陽菜ちゃん、翔くん。まぁ、まぁ、イチジク!ありがとうね。さ、上がっていきん。」




久しぶりに翔くんの顔を見られて嬉しかったのか

おばあちゃんはとてもはしゃいでいた。




あたしは

玄関に無造作に置かれた涼のスニーカーが目に入って

おばあちゃんの話も半々に、

一歩足を踏み入れた途端、全身が涼の気配を探していた。







涼… どこに…  どこに、いるの?




廊下に、台所に、奥の和室に、

視線を、移すけれど

どこにも、涼はいなかった。




トイレ? お風呂? … お庭?





………





「…… ちゃん…!、陽菜、ちゃん!」


「っ… あ、ごめんなさい…」

縁側のある奥の和室から、翔くんがあたしを呼んだ。




「涼は、出かけてるって。」


「あ…… そう、なの…」




翔くんが、切なそうにあたしを見てそう言う。

その、瞳の色が、なんとも頼りなげに揺れていて。





―――… ごめんなさい。



何に対してかわからない謝罪の言葉が、空を切った。






< 311 / 451 >

この作品をシェア

pagetop