月の恋人
◆
「翔くんの、その髪の色、カッコいいねぇ。おばあちゃんも、してみようかしら。」
「ぷっ… おばあちゃんだったら、俺より綺麗な金色に染まると思うよ。」
…
時折、チリリ、と風鈴の音が降りてくる。
遠くから、甲子園の開幕を告げるテレビの音。
陽射しの強さと、庭に繁る緑の濃さ。
ミンミン蝉、アブラ蝉、ツクツクボウシ…入り乱れての大合唱。
おばあちゃん家で過ごす、このゆるやかな夏の午後を…
あたしは、忘れたくないって思った。
いつか、この優しい風景も、消える日が来る、から。
――… 涼が、あたしの世界から、突然、消えてしまったように…