月の恋人








「翔くんの、その髪の色、カッコいいねぇ。おばあちゃんも、してみようかしら。」



「ぷっ… おばあちゃんだったら、俺より綺麗な金色に染まると思うよ。」








時折、チリリ、と風鈴の音が降りてくる。



遠くから、甲子園の開幕を告げるテレビの音。

陽射しの強さと、庭に繁る緑の濃さ。

ミンミン蝉、アブラ蝉、ツクツクボウシ…入り乱れての大合唱。






おばあちゃん家で過ごす、このゆるやかな夏の午後を…



あたしは、忘れたくないって思った。


いつか、この優しい風景も、消える日が来る、から。







――… 涼が、あたしの世界から、突然、消えてしまったように…








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