月の恋人
◆
翔くんが、この家を出て行った。
ふたりで、星を見上げたあの夜の
次の、朝に。
ママが、そうさせたのだと、後で聞いた。
あたしは――…
どうしてだろう。
それを聞いても、もう何の感情も湧いてこなかったんだ。
翔くんがいなくなって…悲しい。寂しい。
勝手な事した、ママが憎い。
それはもちろんそうなんだ、けど…
それはどこか他人の感情のようで。
現実感が欠片もなくて。
音のない声のように
心もまた、現実の熱を失ってしまったようだった。