月の恋人
その時、あたしは突然理解した。
もう、
あの頃には戻れないんだって。
あたしたちは
少年たちのいるあそこから
離れた地点に、来てしまったんだって。
「大人になるって、きっとこういう事の繰り返しなのかな―…しんどいねぇ。」
隣を見たら、亜美も校庭を見ながら…泣いていた。
とてもとても綺麗な、透明な涙だった。
「でもね、あたし後悔はしてないんだ。多分、先輩に好きな人がいるって最初から知ってても、あたしは先輩を好きにならずにはいられなかったよ。
それに―…あたしが先輩と過ごした時間は、消えてなくなったりしないもん。2人で共有した時間は、2人だけのものだよ。それが、悲しいけど、嬉しいの。」
―――それを聞いた瞬間
頭の中で、
何かが パァン、と弾けた。
“消えてなくなったり、しない”
そう力強く言い放った亜美の言葉に。
“2人で過ごした時間は、消えてなくなったりしない”
…それは何て、大きな事実なんだろう。