月の恋人
「陽菜―…?」
あたし、それが聞きたかった気がするの。
誰かに、そう言って欲しかったの。
亜美がそっと近寄って、帽子越しにあたしの頭を撫でた。
「焦らなくて、いいよ。陽菜は、陽菜のままでいいんだよ。焦ったってしょうがない。あたしたち、まだ子供なんだもん。そのうちきっと、今つっかえてる事が何だったのか、分かる日が来るよ。」
―…あたしは、あたしのままで、いい?
「どんな陽菜でも、いまの陽菜が、陽菜だもん。あたしは、陽菜が好きよ。だから―…、もっとワガママになってよ。なんでも、曝け出して、もっと、自由に言っちゃえばいいんだよ。ねぇ、陽菜はいま、何が欲しいの?」
――『陽菜は、どうしたいの?』
それは確か前にも
亜美に聞かれたことだ。
駅前のマックで。
どうしようって相談した時―…
『“しなきゃいけないこと”なんて、何もない。陽菜は―…』
――…そうだ。
あたしは―…いま、どう、したい…の?