月の恋人







「―…おい、翔。ちょっと表出ろよ。」


地区大会用に、と渡した曲順と楽譜を見て、タケルが俺をスタジオの外へ連れ出した。




「このオーダー(曲順)、本気か?全部、コーラス無しの曲じゃんか!決勝も、陽菜ちゃん出てくれないってこと!?」



さすがに気付いたか――…

続いてジョージも出てくる。




「正直に言えよ。陽菜ちゃん、何かあったんだよな?」



もう、これ以上は無理か…。

2人に囲まれてため息を吐いた俺の横で、じいさんが静かに口を挟んだ。



「まぁまぁ、2人とも、ちょっと落ち着かんかい。」



その片手から、カラメル色の液体がゆるりと落とされカップに注がれる。




―…じいさんの淹れるコーヒーは、どうしていつもあんなに美味そうなんだろう。






< 374 / 451 >

この作品をシェア

pagetop