月の恋人
◆
「―…おい、翔。ちょっと表出ろよ。」
地区大会用に、と渡した曲順と楽譜を見て、タケルが俺をスタジオの外へ連れ出した。
「このオーダー(曲順)、本気か?全部、コーラス無しの曲じゃんか!決勝も、陽菜ちゃん出てくれないってこと!?」
さすがに気付いたか――…
続いてジョージも出てくる。
「正直に言えよ。陽菜ちゃん、何かあったんだよな?」
もう、これ以上は無理か…。
2人に囲まれてため息を吐いた俺の横で、じいさんが静かに口を挟んだ。
「まぁまぁ、2人とも、ちょっと落ち着かんかい。」
その片手から、カラメル色の液体がゆるりと落とされカップに注がれる。
―…じいさんの淹れるコーヒーは、どうしていつもあんなに美味そうなんだろう。