月の恋人



「お前さんは、ひとりで何でも抱え込みすぎなんじゃよ。」

「じいさん―…」



珍しく葉巻きタバコの煙を燻(くゆ)らせるジジイ。

飴色の光に、白い煙がじんわり溶けていく。




ふぅぅ、と大きく息を吐いて、じいさんは静かに続けた。




「バンド、という形態もな、それ自体がひとつのハーモニーじゃて。オーケストラとおんなじじゃ。それに気付けんうちは、ただの楽器に過ぎん―…各々(おのおの)がな。」


「バンドも、ひとつのハーモニー…」


「その意味のわからんお前さんじゃなかろう。
 
 すべてを曝け出して、共有しあって。腹の底からの信頼関係がなきゃ、聴く人の心に届く音楽なぞ、生み出せん。

 知らんのか。“音は、全てを語る”んじゃ。中途半端な意地なんか、張ったってムダじゃよ。音を聴けば一発でバレるわい。」




――…さすが、祖父と孫だ。


こないだタケルが言ってたことと全く同じことを言ってる。







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