月の恋人
ドキン、と心臓が大きく脈を打った。
“陽菜”―…
その名前を聞いただけで、血が逆流しそうだった。
「休憩中に声掛けに行こうと思ったんだけどさ、近くまで行ったら、何かちょっと雰囲気が微妙で。陽菜ちゃん、ガリガリに痩せてたし、2人とも泣いてて―…」
――…泣いてた?
何かあったのか?
どうして、泣いてたんだ?
“ガリガリに、痩せていた”?
翔は、何をしてるんだ?
『あたし、涼が…好きだもん。』
あの時陽菜が言った一言は、体の中心に居座ったまま、どうやっても消えない。
分かってる。
あれを言わせたのは、俺だ。
好きの意味もよく分からない陽菜に
ああ言わせてしまったのは、俺なんだ。
でも―…お前の隣には、翔がいるだろ?
何で泣いてんだよ…陽菜。