月の恋人
グッと拳を握り締めた、その時
―― キ―… ン ――
テレビから小気味良い金属音が響いた。
途端、ワァッと歓声が大きくなる。
『そして、逆転・サヨナラのランナーが出ます!2アウト1、3塁!』
“一打、サヨナラ勝ちのチャンス―…”
実況アナウンサーの放つ興奮気味の声が、耳を通過していった。
「お前さ―…陽菜ちゃんのことになると、ほんと目の色が変わるよな。」
そんな俺を見て、アキが、からかうように言う。
呆れたように笑う口元。
「お前、昔からおおらかで、飄々としてて。動揺したり慌てたりすることもなくて、嫌な奴だなぁと思ってたけど、陽菜ちゃんの事だけは、別だよな。お前が真剣な目をするのは、陽菜ちゃんに何かあった時だけだ。
お前が本気で嫌がるのが面白くて、俺“陽菜ちゃん陽菜ちゃん”って言ってたんだけど。…気付かなかった?涼。」
――…なんだって?
初めて聞く事実に驚いてアキの方を見ると
半ば呆れたような表情をして、俺の方を見ていた。