月の恋人
◆
この微妙な均衡を保ったままの状況で
先に動いたのは、アイツの方だった。
やっぱり敵わないなと思う。
多分、一生、敵わない。
ばあちゃんと早めの夕飯を済ませた後
居間で涼んでいると、古めかしい音の玄関の呼び鈴が鳴った。
叔父さんかと思って出て行くと…訪問者は、意外な人物だった。
夕闇迫る、午後6時。
そこに立っていたのは
思い詰めた目をした、どこか自分とよく似た顔立ちの少年。
「翔……」
背中を一筋… 汗が伝っていった。