月の恋人
◆
「翔―…」
ひとりか?
どうして…ここへ来た?
大気はまだ昼間の熱を残していて。
じっとりとした湿気が肌にまとわりつく。
「―…話がある。ちょっと、外出られるか?」
何かを抑えているような口調。
こいつらしくない。
「オレは―…話なんて、ない。帰れよ。この後、芹沢のおじさんが来る予定なんだ。」
そう言って、翔に背を向けて家に戻ろうとした。
オレは、話なんてない。
それに―…
『陽菜ちゃん、ガリガリに痩せてたぜ…』
何、しに来たんだよ。
弱ってる陽菜を放って、何してんだよ。
『泣いてたみたい―…』
お前が泣かせたのか。
こんなとこで―…何してんだよ。