月の恋人







「翔―…」



ひとりか?

どうして…ここへ来た?



大気はまだ昼間の熱を残していて。
じっとりとした湿気が肌にまとわりつく。




「―…話がある。ちょっと、外出られるか?」


何かを抑えているような口調。
こいつらしくない。



「オレは―…話なんて、ない。帰れよ。この後、芹沢のおじさんが来る予定なんだ。」



そう言って、翔に背を向けて家に戻ろうとした。

オレは、話なんてない。

それに―…





『陽菜ちゃん、ガリガリに痩せてたぜ…』



何、しに来たんだよ。
弱ってる陽菜を放って、何してんだよ。




『泣いてたみたい―…』



お前が泣かせたのか。
こんなとこで―…何してんだよ。




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