月の恋人



「―――…頼むっ…」




背後で、ザッという砂音と共に
何かが、動く気配がした。

振り返るとそこには…目を疑う光景が広がっていた。




「翔!? な――…」


砂利に埋まる両手と両膝。
小さく丸まったみたいな体。


翔は、地面に這いつくばるようにして…オレに頭を下げていた。




「なに…してんだよお前…」

土下座…? オレに? 翔が?




「…俺じゃ、ダメなんだ…」

まるで、腹の底から搾り出すような声。



「……え?」


「陽菜ちゃんの傍に、いてやってくれないか。お前じゃなきゃ…ダメなんだ。」



玄関に敷かれた砂利を、翔の手が握り締めて
微かな音が、立った。





「……」


「……」




< 393 / 451 >

この作品をシェア

pagetop