月の恋人
「―――…頼むっ…」
背後で、ザッという砂音と共に
何かが、動く気配がした。
振り返るとそこには…目を疑う光景が広がっていた。
「翔!? な――…」
砂利に埋まる両手と両膝。
小さく丸まったみたいな体。
翔は、地面に這いつくばるようにして…オレに頭を下げていた。
「なに…してんだよお前…」
土下座…? オレに? 翔が?
「…俺じゃ、ダメなんだ…」
まるで、腹の底から搾り出すような声。
「……え?」
「陽菜ちゃんの傍に、いてやってくれないか。お前じゃなきゃ…ダメなんだ。」
玄関に敷かれた砂利を、翔の手が握り締めて
微かな音が、立った。
「……」
「……」