月の恋人
西の空に、夕日が落ちる。
次第に暗さを増す景色の中で
翔の金髪だけが、やけに光彩を放っていて。
オレはしばらく
そこから、目を離せないでいた。
「…陽菜、どうかしたのか。」
いつのまにか、喉がカラカラに渇いている。
昼間のアキの言葉が気になって
先に口を開いたのはオレだった。
そして、初めて、事態を知る。
「陽菜ちゃん…声が出なくなっちゃったんだ。しゃべれないんだよ、いま。」
「な―…どういう、事だよ!?」
「失声症、という…一種の病気だそうだ。心に抱える不安やストレスが原因。」
「不安や、ストレス? …陽菜が?」
「多分…お前が、スコットランドへ行くって聞いてからだ。余程、ショックだったんだろ。お前がいなくなることが。」
「そんな―…」
バカな。
オレがいなくなるって聞いただけで
声が出ない、だって?
そんな―…バカな事、あるかよ。