月の恋人
◆
あの日―…亜美と出かけて戻ってきた時
ママが弾いていたピアノの上には白い封筒が置かれていた。
“みなさんで、来てください”
そうメッセージが添えられて
中に入っていたのは、入場券だった。
券は、4枚。
パパと、ママと、あたし、それに―…
「―…結局、涼は戻って来なかったわね。」
隣で、大きくため息がひとつ漏れて
その場の空気を、押し下げた。
どうしても仕事で来られないパパを置いて
あたしとママは、2人でこの会場にいる。
「まったく…急に留学するなんて言い出すし、あの子も一体何考えてるのかしら。」
“留学”という単語に、びくりと肩が震えた。
まだ―…こわい。
その単語を受け入れるには、あたしはまだ弱い。
手元に残されたチケットは、1枚。
あたしの行動は―…正しかったのだろうか。