月の恋人






「え!?当日券、無いんですか!?」


混み合うライブ会場の入口で
ママが大きな声を上げた。



「申し訳ございません。本日分は、全て完売で…」

受付のお姉さんが困ったように頭を下げている。





え――…当日券が、ない?


手元に1枚だけ残ったチケットを見た。

しまった…会場に行けばなんとかなるなんて、考えが甘かった…。





「で、でも…家族が出演するんです!」


「出演者の皆様には、それぞれ規定分の招待券を配布しておりますが…」


「いや、それは本人からもらったんですけど、それを知人にあげちゃって、ですね…」


「では、申し訳ありませんが、こちらでは、対処致しかねます…」




お姉さんも、困っているのだろう。
しばらく押し問答が続いていた。






「らちがあかないわ、困ったわね、どうしようかしら…」


ママが呟きながら戻ってくる。








――…どうしよう。



ここに来て、会場に入れない、なんて…。



4枚のうち、2枚は
おじちゃんとおばちゃんに送ってしまったし




もう1枚は―…









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