月の恋人
◆
「え!?当日券、無いんですか!?」
混み合うライブ会場の入口で
ママが大きな声を上げた。
「申し訳ございません。本日分は、全て完売で…」
受付のお姉さんが困ったように頭を下げている。
え――…当日券が、ない?
手元に1枚だけ残ったチケットを見た。
しまった…会場に行けばなんとかなるなんて、考えが甘かった…。
「で、でも…家族が出演するんです!」
「出演者の皆様には、それぞれ規定分の招待券を配布しておりますが…」
「いや、それは本人からもらったんですけど、それを知人にあげちゃって、ですね…」
「では、申し訳ありませんが、こちらでは、対処致しかねます…」
お姉さんも、困っているのだろう。
しばらく押し問答が続いていた。
「らちがあかないわ、困ったわね、どうしようかしら…」
ママが呟きながら戻ってくる。
――…どうしよう。
ここに来て、会場に入れない、なんて…。
4枚のうち、2枚は
おじちゃんとおばちゃんに送ってしまったし
もう1枚は―…