月の恋人






「いやいやいや、まさか陽菜ちゃんが長瀬さんのお嬢さんだったとはの。世間は狭いのう。」


無事会場に入れたあたし達は、会場の出入り口近くにスペースを確保してしばらく会話を交わしていた。

(と、言ってもあたしは発言できないけれど)




「志田先生こそ。教壇を去られてから、どうされているのかと思っていましたが…まさか…、こんな形で、陽菜や翔くんがお世話になっていたなんて…。」


「世話なんぞ、しとらんよ。孫の道楽にじじいの道楽が乗っかっておるだけじゃ。」


「その、“バンド”ですけれど…翔くんだけじゃなくて、陽菜まで一緒に歌っていたなんて。知りませんでした―…」


ママが、驚いたような目で、あたしを見た。




どうやら、おじいさんは、過去、
ママの通っていた音大で教師をしていたらしい。



そういえば、おじいさんのこと、実は有名な音楽家なんだって、翔くんが言ってたような…





「この子は、良い声と勘をしとるよ。血は、争えんの。わしは、君が…ステージの中央で歌うのを見たかったんじゃが。…イタリアは、遠かったか。」


「昔の――…、話です。」


どこか遠い目をして、舞台の方に視線を移すママ。






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