月の恋人
「夜明けの街って、好きなんだ。」
屋上の柵に手をかけて
東の空を見つめて翔くんが言う。
「ネオン街の賑わいが、嘘のように静まり返って、街が朝日に包まれていく。昼間、活動する人たちも、まだ起き出してこない。
この僅かな時間に街が見せる表情がね、すごくリラックスしているような気がして。よく、ここでギターを弾いてた。音が街に吸い込まれていく感覚が、好きで。」
「わかる、気がする…。」
翔くんの隣に並んで、次第に白んでいく街を見渡す。
乾いたギターの音は
朝焼けの空気によく合う。
きっと翔くんが奏でるなら
それはとても優しい朝の訪れになるだろう。