月の恋人



「―…親父たちにチケットを送ってくれて、ありがとう。あの親父を動かすなんて、陽菜ちゃんにしかできないよ。」


「ううん、そんな…大したこと、書いてないよ…。それに、あたしも翔くんにお礼を言わなきゃ。」


「え?」


「涼のところへ…行ってくれたんでしょ?」


「あぁ…あれはカッコ悪かったなー。もう2度としたくない、土下座とか。」


「…土下座?」




「陽菜ちゃんは、お前じゃなきゃダメなんだって。」


「え…」





思わず横に顔を向けると、
翔くんの真剣な瞳がそこにあった。





「声のことがあって、俺じゃダメなんだって、実感したから。だから…カッコ悪かったけど、頭下げに行ったんだ。家に戻ってくれって。

 俺は、正しかっただろ?やっぱり陽菜ちゃんを救ったのは、涼だった。陽菜ちゃんに必要なのは…俺じゃなかった。完敗だ。」


「翔くんっ!」








――…どうして、そんなこと言うの?違う、あたしは…







「違うよ、そうじゃない。確かに、あたしの声を出すきっかけを作ってくれたのは涼だけど、だけど―…翔くんだって、同じくらい、大切だよ。ううん、同じじゃない―…あたし、涼とは違う意味で―…翔くんのこと…」






翔くんのこと――…







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