あやめ
彼女はしばらく口を開けたまま固まっていたけれど、
「あ、このお酒、買いたいんだけど」
僕が母に渡されたメモを差し出すと我に返り、
「未成年に売るお酒はありません」
事務的にそう言った。
そして店内に戻ろうとするのを、僕は慌てて止める。
「連絡入ってるはずなんだ、『中川』って」
「…お待ちください」
彼女は俺を冷たく一瞥して、レジカウンター奥の扉に向かって声を上げた。
「おばさーん。中川さんって人が来てるんだけど、何か連絡来てるー?」
間もなくして、中年の女性が現れた。
「いらっしゃい。中川さんのとこの息子さんだね。お母さんから連絡もらってるよ」
そう言ってくれたので、彼女もようやく僕を客だと認めてくれた。
けれど、
「何をお探しで?」
ぶっきらぼうな態度は相変わらずで、さっきの客に対する態度とはえらい違いだ。