あやめ
僕がメモを渡すと、てきぱきと酒を手にとってはカゴに入れていく彼女の後ろ姿に、話しかけてみる。
「ここでバイトしてたんだ?」
「…バイトっつーか、手伝い。ここ、あたしん家だから」
彼女は嫌々ながら答える。
そこで僕は首をかしげる。
自分の家と言っていたが、さっき姿を見せた女主人と思しき人を“おばさん”と呼んでいた。
少なくともあの女性は、彼女の母親ではない。
さらに、彼女は“ヤマザキ”で、ここは“工藤”酒店だ。
いくつもの疑問が頭に浮かぶ。
でも、そんなことを聞いても、彼女は答えてくれないだろう。
僕はとりあえず言う。
少し皮肉を込めて。
「へぇ。見かけによらず、偉いんだね」
「…るせーよ」
彼女は誰にも聞こえないくらい小さな声で言った。