あやめ



莉子だなんて、思わなかった。


でも、短い髪も、小柄な体も、上履きのスニーカーも、それが彼女であることを示していた。


「莉子…」


近付けなかった。


でも、


「莉子…!」


僕は呼んだ。


「莉子!莉子!」


涙と鼻水で、顔をぐしゃぐしゃにしながら、何度も何度も彼女を呼んだ。


返事をしてくれない彼女を、何度も。


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