あやめ



見間違えたのは、寝ぼけていたからではない。


目を開いたあの瞬間、僕は莉子を見たのだ。


あやめの瞳に、莉子を見たのだ。


(やっぱり…あやめも…)


「あやめ…!」


あやめも、莉子のように、深い悲しみを隠している。


僕は確信した。


あやめの瞳は、あまりに莉子に似ていた。


「あやめ!!」


僕はとっさにあやめを追ったけれど、もう彼女はどこにもいなかった。


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