あやめ



木の根元に寝そべっていた巧は、突然の怒声に跳ね起きた。


半分眠ったような状態だったので、夢と現実の区別がつかない。


ぼんやりしたまま辺りを見回してみるけれど、特に変わった様子はなかった。


けれど次の瞬間、


「テメェふざけんなよ!!」


再び飛んできた声が、今度ははっきりと聞こえた。


しかし耳を疑わずにいられない。


(……嘘だろ?)


なぜなら、この上なく汚い言葉を吐き出すその声は、明らかに女子のものだったのだ。


決して古風な方ではない巧だが、男言葉をこうも完璧に使いこなす女性がいるということに、衝撃を受けずにはいられない。


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