あやめ



巧はとっさに彼女の腕を掴み、


「こっち!早く!」


普段の自分からは想像できないほどの強引さで、彼女の手を引いて茂みの中に追いやった。


それとほぼ同時に、校舎の影から数人の女子が飛び出してくる。


巧は何事もなかったかのように、さっきと同じくそこに寝そべった。


「おい!」


巧に気付いた女子の一人が傍にやって来て言う。


「こっちに誰か来なかったか?髪の長い女だよ。茶髪の」


巧はきわめて冷静に答えた。


「さっきからずっとここにいるけど、誰も通ってないよ」


それを聞いて彼女は舌打ちをした後、仲間に向かって、


「おい!あっちだ!」


そう叫んで、反対方向に走り去った。


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