あやめ



女子達の姿が見えなくなり、怒声が聞こえなくなったのを確認してから、僕は起き上がった。


彼女を追いやった茂みを覗き込んで声をかけてみる。


「大丈夫?」


「……余計なことしてんじゃねーよ」


そう言いながらも、彼女は膝を押さえて顔を歪めていた。


よく見ると、顔や腕にも怪我をしている。


(……嘘だろ)


口の横に血がにじみ、頬が赤黒く腫れ、腕にも同じようなあざができている。


見るも痛々しい。


「それ、あいつらにやられたのか?だってむこう何人いた?」


思わず声を上げる。


僕の見た範囲でも、相手は少なくとも五人はいた。


一人対複数なんて、


「まさか……」


浮かんだ一つの可能性に、僕は一瞬口ごもる。


しかしここまでまくしたてた以上、引き返すことはできなかった。


「いじめられてる……とか」


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