あやめ
初めて行く酒屋に少し迷いながらも、やがて『工藤酒店』の看板を見つける。
自転車を降りて店の脇に停めていると、
「ありがとうございました!」
店の中から、客らしき人に続いて女性の店員が出てきて、元気良く頭を下げるのが目に入った。
『酒』とプリントされた古風なエプロンをして、明るい色の長い髪を後ろで結んでいる。
その立ち姿や声の印象から、かなり若い女性だと想像できた。
客を見送った女性店員は、次なる客である巧に気付き、
「いらっしゃいませ!」
完璧な営業スマイルで元気にそう言ったのだが、次の瞬間目を丸くして、笑顔が固まった。
なぜなら、
「なんで、あんたが……」
巧はその女性を知っていた。
そして彼女も、巧を知っていた。
彼女は、傷だらけで強気で口の悪い、あの女の子-“ヤマザキ”-だったのだ。