あやめ
自転車のカゴの中で瓶をカチャカチャ鳴らしながら、巧は今日最初に見た彼女の笑顔を思い出していた。
店員としての“営業スマイル”なのかもしれないけれど、彼女があんなふうに笑うなんて知らなかった。
それにすごく明るくて、手際もよくて、巧の知る彼女からは全く想像ができない。
今でもそのあまりの豹変ぶりを信じられないくらいだ。
「ヤマザキ、アヤメ」
巧は彼女の名前を口に出してみる。
(変な女…)
学校ではあんなに乱暴なのに、家ではちゃんと手伝いをしている。
店員らしく明るく笑って接客して、“おばさん”とも仲が良くて、頼られているふうだった。
学校での姿と、店での姿が、巧の頭の中ではどうしても重ならない。