あやめ



一応、彼女を気遣って、小声で問いかける。


「…あんた、いったいあいつらに何やったの?」


「別に何もしてねーよ。最初はあたしのことが気に入らないって因縁つけられて、殴られたから殴り返した」


あやめは追手を気にしながら早口に言う。


「向こうは複数だから全員倒せなくて、それ以来、何かにつけて衝突してる」


ごく自然にそう言ってのけるあやめに、巧はあきれる。


(こいつら…ほんとに女か?)


でも、いじめられているわけでないというのは本当らしい。


だったら、


「その首の……」


言いかけた時、彼女の瞳が一瞬陰ったのを、巧は見逃さなかった。


なぜだろう、胸がズキズキと痛む。


「あんたに関係ねーよ」


目をそらして、つぶやくようにそう言うと、あやめは走り去った。


あの日と同じ、小さな嵐のように。


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