あやめ
ようやく縄から解放された莉子が、体育館の床に横たえられた。
巧は少し離れた所に立ちつくすしかなかった。
世界が白黒に見える。
水の中にいるように、辺りの騒がしさが遠くに聞こえる。
莉子の目は少し開いていて、けれどその目はどこも見ていなかった。
死んでいるのだと、この時ようやく認識した。
怖れていたよりずっと綺麗な顔をしていることに、どこか冷静に感心していた。
首に刻まれたあざだけが、妙にくっきりと目に焼きついた。