あやめ
莉子は自分でバスケットゴールに縄をくくりつけ、脚立に上って首を吊ったというのが、公式の結論だった。
後に、自宅にあった日記に「これ以上自分のことを嫌いになるくらいなら、死んだほうがましだ」と、自殺をほのめかす文章が見付かったのが決定打となった。
しかし巧は、莉子が例の女の子から、“そういう”いじめを受けている最中に、誤って足場が倒れたのだと考えていた。
その日を境にあの子が巧の目の前に現れなくなったことが、事件の真相を証明していた。
いじめはなかったか、莉子から何か聞かされていたことはないかと、何度も聞かれ、無記名のアンケートにも答えさせられた。
マスコミが学校の回りをうろうろしていた。
校長先生が、テレビに出ていた。
巧は、その全てから、目をそむけていた。