あやめ



最後に莉子の笑顔を見たのがいつだったのか、思い出せない。


巧が覚えている莉子は、とても笑顔とは言い難く、口角だけはなんとか持ち上げて、でも今にも泣き出しそうな顔だった。


「バイバイ、巧」


ふりしぼるように、そう言った。


その瞳の奥にあるものに、巧は気付かないふりをしていた。


そのうちまた前のように笑ってくれると思った。


明日も同じように、莉子に会えると信じて疑わなかった。


でも、次に会えた莉子は、泣きそうな笑顔さえも見せてくれなかった。


そしてもう二度と、そんな莉子にさえ会えなくなってしまった。


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