ヴァンパイア様と猫

「…存分に笑ったね」


もう面倒に思いながら言えば目尻に涙を溜めながら頷く依智。


「聞きたいんだけど………その婚約に依智の意志は?」


まっすぐ見つめて言えば和やかだった雰囲気がピリッと緊張が混じったようなものへと変わる。


崩していた体勢を直し、きちんと向き合うあたし達。


たっぷりの沈黙のあと、依智が答えるために口を開いた。




「もちろん、俺の意志だよ。そもそも美依と婚約したいって言ったのは俺なんだから」


思いがけない言葉に、あたしは固まる。


依智があたしと婚約したいって言った…?


それはつまり、あたしに多少でも好意があるってこと?


確定しきれない答えに戸惑う。


そんなあたしが返せた言葉は


「そっか」


のただ一言だけだった。


自分でも、自分から聞いといてその答えはないんじゃないのか?って思う。


だけど今のあたしにはそれ以上の言葉も思いつかなければ依智の気持ちを聞く勇気もない。


だから、ただ一言しか言えなかったんだ。


こんなに勇気がなかっただろうか…?


見えない答えにそのことだけが頭の中を回る。





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