彼が猫になる
商談はあっけなく終わった

終電を気にしたくせ時間があまり過ぎたくらいだ

今電車に乗ったら会社でデスクワークくらいできるかもしれない

…散歩でもするか。

相手先までTaxiで20分

歩けない距離じゃないはず

気持ちいい。

田んぼの枯れた感じ 

春に向けて土をおこした匂い…

ピリピリした冬の風が今の景色を守り立てる

田んぼの中にポツンと建つ小学校

丁度行きしに横を通った

歩くとその何気ない佇まいが色々見えてくる

へぇ~ここの小学校は卒業生の手形を残してるんだ

毎年追加されるにしても少ない手形

フフ やだっこの子足型とってる

クラスに一人そう言う子がいるんだ

無駄にやんちゃで調子乗り

でもそういう奴がモテたりして…

!?

あたしは目を疑った

「いちご」

確かにその足型にはいちごと名前が…

きだいちご??

確か一護の苗字は服部だったはず

人違いか…

卒業年度は…。

あたしより2こ上

一護の年だ。

ま。こんなもんだろう。

一護なんて名前一杯あるし

一人で盛り上がって馬鹿みたい

あたしは小学校をそそくさと通りすぎた

長い長い田んぼ道

これを抜けたら駅の商店街が見えてくるはず

何年ぶりに歩いてるんだろう

ヒールじゃなかったら何kmでも歩けそう

将来こんなところでゆっくり住むのもいいかもしれない

勿論一人は嫌だけど妥協も嫌だな…

ヒュルル~

北風が体を冷やす

駄目駄目。

あたしは前を向いていくって

決めたんじゃない! 今を生きてらなんとかなる!

自分を慰め、一歩また一歩と歩幅を広げる

そんな時あたしを呼び戻す声がする
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