彼が猫になる
病院は

お婆ちゃんの駅から

3つ向こう。

決して遠くはない。

「あった」

病院は駅近くにあり

すぐ分かった。

お婆ちゃんの言う通り病室に向かう

…白血病

TVでしか知らないけど

無菌室って予想してたから

面談も無理だろうし

まして赤の他人が病室に

いれてもらえる訳も無い

でも顔が見たい

あたしはライバルに負けたのよ

って確証が欲しかった

愛美ちゃんは一階の庭が見える

病室で寝ていた

二重で覆われたシート向こうにおり

はっきりは見えない

けどそれは向こうからも一緒なはず

まだ朝も早い

どうか起きないでね。

あたしは

硝子越しに手を合わせる

「お願いします。
   愛美ちゃんが良くなりますように」

あたしは最低な女になりきれなかった

ライバルを受け入れることができた

まだあたしも死んじゃいない。

「カリカリカリ」

愛美ちゃんの窓側から聴こえる…

「ミャァア」

あの猫!

あたしを小学校まで導いた

あの猫。  どうして…

ふと愛美ちゃんが目を覚ます

愛美ちゃんは猫を見たかと思うと

こっちに顔を向ける。

ゃばっ。

あたしはまるで一般人です並みに

ど下手な演技で立ち去ろうとした。

でも見逃すことができなかった。

『待って』

聴こえないはず

でも確かに愛美ちゃん?

あの猫?

あたしは呼び止められた。
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