彼が猫になる
ドクン。 ドクン。

久しぶりに聞く

一護の声。

前よりちょっと低くなった?

それだけで

あたしの心臓は緊張ではちきれそうだ

「今日は早く起きたんだなぁ」

「ぅん!
  お姉ちゃんが相手してくれたから!」

あたしは顔を下げ

会釈をしてそそくさドアに向かう

「どうもすいません。」

あたしは顔上げられなかった

下向いたまま不自然に

ドアから出て行く。

ふぅ…。ばれてない。

部屋からもれる話声

「変な人だったなぁ」

「愛美がナンパしたんだょ! 
      凄いでしょ」

「馬鹿野郎~
   人様に迷惑をかけたら駄目って
  あ~も言ったのに!」

「アハハハ」

本当に仲良しなんだな。

もう心残りはない。

どうか愛美ちゃんお大事に…。

「きゃっ!」

下向きで部屋から出たままだったから

人にぶつかってしまった

「すぃません…」

カルテをもった看護士さんの

荷物を拾いあげる。

その瞬間

ガラっと愛美ちゃんのドアが開く。

あたしは思わず顔を上げてしまった。

バチっと一護と目があう

髪の伸びた一護

前よりちょっと痩せたかも知れない…。

「…ぅ、ぅぶ!?」

あたしは拾ったカルテをほおり投げ、

一目散に走り去る。

「ちょっまっ」

「違いますーーー」

追いかけてくる一護

「違いますってばーーーーー」

静かな病院なのに

あたし達の闘争劇で病院は

賑やかになる

「おい! 松田のじっちゃん
  その子止めてくれーーーー」

ほぃって。

股を開き構える

目の前のおじいちゃん

そんなん無しでしょう!?

あたしは他2.3人に確保されて

しまった。

「観念なさい」

落ち着いた一護の声。

そっと抱きしめられる

「逮捕だ!」

「ひゅーひゅー」

おじいちゃんやら

おばあちゃんやら

子供やら

一杯の中で小さく

抱きしめられるあたし。

なんでか拍手喝采。

耳元で僅かに聞こえる

「…ずっと…
    …逢いたかった…」
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