心の羽根
「お母さん、ただいま~!」
彼女は家の玄関を開けると大声で叫んだ。
「失礼します」
続けて彼も入る。
「お帰りなさい、ああ、お久しぶり!さあ中に入って」
「はい!」
彼は彼女の家に上がった。
今日は彼女の家に泊まることになっていた。同じ町内の幼い頃からの知り合いなので、お互いの家族共、気心は知れていた。
「私、浴衣脱いでお風呂入ってきていい?汗で気持ち悪い」
彼女がしかめっ面で母親に言う。
「お風呂沸いてるから入ってきなさい」
彼女は笑顔で彼に向き直ると
「ハイ」
と言ってビニール袋を差し出した。中にさっきの金魚が困った様な顔で漂っている。
「取ってきたの?お母さんが水に入れておいてあげるから、早くお風呂入っちゃいなさい。疲れたでしょ?」
「はぁい」
母親はビニール袋を受け取ると、彼に居間に上がる様に言い、奥に消えていった。
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