心の羽根
彼の夏休みは瞬く間に過ぎた。彼女も連日の様にはしゃいでさすがに疲れが出た様で、後半はほとんど町から外に出ず、家にいたり近くを散歩したりした。 「ごめんね、折角帰ってきて会えたのに具合悪くなっちゃって」
「いいよ、それよりもよく休んで早く良くしろよ」
彼は今回、彼女に会って嘘が上手くなった…かもしれない。

ついに明日彼は都会に帰る日になった。あと1日しか彼女との時間は無かった。相変わらず彼女は体調が良くなく、ベッドに入っていた。彼は焦りを感じていた。なんとか出来ないのか? オレには何も出来ないのか? 今にも涙が溢れ出てきそうだった。
「姉ちゃんが呼んでるよ」
同じく都会に出ていて夏休みで偶然帰ってきていた彼女の弟が居間にいた彼に声を掛けた。
「なんだ?」
彼は彼女の部屋に入ると勉強机のイスに腰掛けた。布団から目だけ出して自分を見ている彼女に、つい目をそらしてしまう。
「…あのさ」
布団越しにくぐもった声が聞こえる。
「今日行きたい所あるんだ」
「ん?」
彼は目を合わせる。
「私がね、一番好きな場所。」
そう言うと彼女は布団を捲り、ゆっくり起き上がった。

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