心の羽根
何にも邪魔されない視界にはどこまでも続く青空が広がっていた。
「なんか…空ってこんなに広かったのか…」彼は呟いた。手を伸ばせば届きそうなほどの近さに空が広がっていた。
「ここから見る空、超好きなんだよね」
彼女は眩しそうに目を細めて笑う。
「ここからだとなんか空に飛べそうな気がして。」
彼女は軽く地面を蹴った。ブランコが彼女を乗せて小さく前後に揺れる。
「マジで羽根が欲しいと思った。私心臓が病気じゃん?だから一人で遠くになんて行けないし、自分のしたい事とか我慢してばっかだった。だから羽根があったらこの空に飛んで今すぐ逢いに行きたいなぁ~なんて」
彼女は笑ったままだ。彼は空を見たまま聞いていた。
「なんてね。子供みたいでしょ? だから私、せめて心に羽根があればなぁって思ったんだ」「心に羽根?」
彼が彼女に向き直る。彼女は相変わらず笑いながら空を見たままだ。
「電話とかメールとか実際に会って話したって伝えられないものって沢山あるじゃん。だから私の心そのものに羽根をつけて、いつもここから飛ばしてた。届け~って」
彼女も彼に向き直る。二人は向かい合った。
「いつも思ってたからね。もしこれから私がいなくなる様なことがあっても、私達がどんなに遠くに離れても私はあなたに心を飛ばし続ける。それに気付かなくてもいい。時々私を思い出してくれればそれだけで幸せだよ」
彼は涙が出そうになるのを必死で堪え、
「…何言ってんだよ」
と言った。こんな時に何も言えないなんて最低だな。
不意に彼女はまた空を見ると、笑顔で、
「なぁ~んてね!ま、また都会で頑張ってね」
と言うと同時にブランコを力一杯漕ぎだした。
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