心の羽根
季節は梅雨になった。そろそろ夏休みの日にちも決まり、彼女に会える日が近付いてきた。
そんな時、全く予想していなかった彼女の母親から急に電話が入る。
「今年は帰る日は決まったの?」
「ええ、大体は決まってます。」
「そう…あの子から体のこと何か聞いてる?」「…え?」「やっぱりあの子、あなたには何も話してないのね…」
「何がですか??」
母親はそこで間を置くと、受話器の向こうで大きく息を吐き出す気配がした。
「あの子、後余命半年なの…」
「は??」
急に頭の中が真っ白になる。
「落ち着いて聞いてね。今年の春、急に倒れて緊急入院になったの。検査の結果、心臓が大分弱ってて、助かる確率が低くてもって後半年ってお医者さんに言われてるの…」
そこで彼女のお母さんはせきを切った様に泣き出した。
急の話に彼は何も言えず、ただ彼女のお母さんの嗚咽を受話器から耳に流していた。
余命半年? 彼女が?
いつの間にか泣き止んだ彼女のお母さんの声で我に返った。
「お願いがあるの」
「はい?」
「あなたには今年の夏も去年の様に帰ってきてあの子に会ってほしいの」
「え?」
「私はあなたにこの事を伝えておかなきゃいけないと思ったから伝えたけど、あの子はあなたに教えずに、今年の夏も去年と同じ様に会おうと思ってるの。こんな言い方キツイけど、もしかしたら今年があなたに会えるのが最後になるかもしれない。それでもあの子はとっても楽しみにしてるから、何も知らないふりして会ってくれないかな…」
彼は声を張り上げた。
「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!そんなこと聞いといて、何も知らないふりして会うなんて…」
彼女のお母さんは落ち着いた、言い聞かせる様な声で言った。
「お願いします。あの子ホントに楽しみにしているの。あなたと会うことだけが生き甲斐なの」
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