心の羽根
夏が来た。今年の夏が二人にとって最後の夏になるかもしれない。彼は彼女に会える喜びと、まだ現実に受け入れられない複雑な気分で彼女が待つ街へ向かう電車に乗り込んだ。彼女の余命の事を知った後も、彼女とは特に変わりなく連絡を取り合った。彼は電車の座席に持たれると、目を閉じ、短い彼女との思い出をなぞった。
最初に気持ちを告げたのは彼だった。お互いの気持ちが通った時の嬉しさは何よりも大きかった。
その後の学生生活は二人にとって大切な時間だった。何度も好きな気持ちを確認し合い、泣いたり笑ったりして絆を深めていった。
色んな所に行った。初めて行った動物園で彼女があまりにも動物を見るのに時間を掛けるから時間がなくて、お目当てのコアラを見れなかった。二人で入った雑貨屋で、お互いの将来の住みたい家の希望を話し合った。映画館では決まって二人ともラストシーンでは泣いてたし、遊園地ではぐれて、再開出来た時には目に涙を溜めて抱き合った。
彼が都会に出てから極端に思い出の数は減ったが、日々の電話やメールを欠かさずやりあった。
そこで彼は思い出した。
彼女は彼が都会に行ってからの二年間、泣き言は一切言わなかった。そしていつもつまずいたり、折れそうになった彼を彼女は励まし続けてくれていた。
ずっと支えられていたのは僕なんだ…。彼はそう思った時、急に涙が止まらなくなった。
今年が彼女との最後の夏になるかもしれない。だから精一杯、今度は彼女を支えよう。
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