キミを待っている
融解
「私、わかっていたんです」
放課後、空き教室。
雪城ユカリは、誰にも話すことのなかった思いを、僕に教えてくれる。
「……私が病気だってことも、それで、弓道が長く続けられないってことも」
彼女は笑った。
それは今までの笑顔のどれとも違った、自虐的なものだった。
「それでも片意地張って、きっと直るって、そう思ってて。……でも、直るわけがないんですよ」
彼女は僕から視線を外し、話を続ける。
「右目……ぱっと見、何も変なところないです。だから、今まで平然としていられたんです」
彼女が顔を上げる。
……彼女は泣いていたのだろうか。
僕たちはしばらく見詰め合って、そして雪城さんは口を開いた。
「怖かったんです」
思い出したように言葉を続ける。
「私が、私でなくなるような気がして」
だから認めたくなったと。
僕は今まで生きてきて自分が培ったものを失ったことがあるだろうか。
いや、ない。
しかし彼女はあった。
そして、思い悩んだのだ。