キミを待っている
いつもとは違うバスは、まっすぐサーキットまで向かった。
そのためのバスなのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
「うわあ」
思わずため息が出てしまう。
入り口にあたるゲートにはたくさんの人でごった返していた。
ナオキじゃないけど、見ただけで鬱になる。
「行く気が徐々に薄れていくよ」
「ほら、ぼうっとしてないで行きますよ」
ユカリさんは物怖じせず、先行する。
とても僕には真似できそうにないけど。
「うん」
僕は返事して、ユカリさんの横に並ぶ。
二人のコートとマフラーがなびいて、それが大きな波に加わる。
そして、人の固まりを分け入って進む。
チケットはすでにユカリさんが買っていたので、僕達は入場待ちの列にすぐに並ぶ事ができた。
……けれど、あまりにも人が多くてはぐれそうだ。
と、考えたところで、ユカリさんが人の波に押されて、流されそうになっていた。
ここではぐれたら中で会えそうにない。
「ユカリさん!」
僕は彼女の手をつかんで、引き寄せる。
「……あっ!」
少々強引だったのか、彼女はよろめく。
そのまま、僕の腕の中に吸い込まれるようにして……。
……僕が抱きとめる形になった。
ぽふっと、僕の胸に顔を埋めるユカリさん。
って。
「ご、ごめん!大丈夫!?」
「……」
彼女は黙ったまま、それでも動かないままでいた。
うう……後ろの人が凝視している。