キミを待っている
「……藤沢、ちょっと来い」
声が聞こえたほうを向くと、受験勉強があるのに来ている三年生の先輩――長瀬先輩が手招きしていた。
僕が部長なのだけれど生徒会で来られない。
そんな時代わりにトップを務めてくれているのが長瀬先輩だ。
だから、彼の言うことには逆らい切れないところがある。
……しかし困った。
さすがに雪城さんを一人にしておくわけにはいかない。
……いや、いい案がある。
「森、雪城さんにパソコン部の作品とか見せてあげて」
「はいー!わかりました」
森なら大した偏見を持たずに雪城さんの相手をできるだろう。
僕は雪城さんを森に任せて、長瀬先輩の元へ向かった。
長瀬先輩は自分の席を立ち、部屋の外へ出た。
どうやら他に聞かれてはまずい話らしい。
そんなまずそうな話ができるのも、僕がこの部活で信頼を得ている証拠なのだが。
その点において、生徒会とは大違いだ。
「……で、どうしました先輩?」
「ほれ」
そう言って手渡してきたのは……細長い紙。
二行に渡って字が印刷されている。
一つは『cs』から始まる番号。
それはパソコン部内で振り分けられた通し番号である。
もう一つは不規則に並んだ英数字。
僕は一瞬でそれが何かを理解する。
「……雪城さんのユーザー名とパスワードですか。準備がいいですね」
新しいユーザーを発行するにはサーバマシンで設定する必要がある。
そのサーバマシンを動かせるのは顧問か歴代部長クラスの人間だけ。
顧問はパスワードを不規則にしないので、ここは長瀬先輩がやったと考えていいだろう。